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タイトル:Daily Drama Express 2003/09/11 Dr.コトー (最終回)  2003/09/17


===================================================== 発行部数   10 ==
                        ★★ 日刊ドラマ速報 ★★
            ☆☆ 2003/09/11 (Thu) ☆☆
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== 目次 ==============================================================
  1.木曜日の連続ドラマ
  2.編集後記
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1. 木曜日の連続ドラマ
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タイトル Dr.コトー診療所
局  名 フジテレビ
放映日時 木曜22時
キャスト 五島健助(吉岡秀隆)
 星野彩佳(柴咲コウ)
 原剛利 (時任三郎)
 西山茉莉子(大塚寧々)
 原沢咲 (石田ゆり子)
 内つる子(千石規子)
 安藤重雄(泉谷しげる)
 和田一範(筧利夫)
 星野正一(小林薫)


脚  本 吉田紀子

あらすじ  ――東京。
 高層ビルとコンクリートに囲まれた都会のただ中に、一流の施設を
整えた、豪華で巨大な病院、昭英大学付属病院がある。人でごった返
したその廊下をややうつむき加減で歩くコトー……五島健助(吉岡秀
隆)。

 奥村教授(大和田信也)から大勢のスタッフたちに紹介され部屋を
見回すと、プロジェクター越しにあの三上(山崎樹範)の姿があった。

 「お久しぶりです」
 今回の手術で助手を務めることになったと三上が五島を呼び止める。
 「今の僕は、あの時とは違います。消化器外科の一員として、あな
たのテクニックに引けを取らない自信があります」
 淡々とした三上の口調は、半年前とは別人のようで威圧感さえ感じ
られる。
 「助手としてではなく、パートナーとしてオペに臨むつもりです」
 患者の熊谷のデータが三上から渡された。
 「この患者の腹水細胞診、もう一度やってくれないかな。これ、
2週間前のデータだよね、大事な検査だから…」
 「分かりました」
 渋々承知した三上は、表情を変えないまま立ち去る。

 VIPである熊谷の病室は特別室だ。五島は奥村とともに挨拶に向
かった。
 「この手術が成功したら、ここに戻してもらえるようじゃないか」
 と熊谷。五島は大して気に留めていない様子で、腹部を触診する。
 「僕は全力を尽くします。必ず治ると信じて、一緒にがんばりまし
ょう」
 熊谷は「相変わらずだな」と笑う。

 病室を出ると、原沢咲(石田ゆり子)が五島を待っていた。ドイツ
留学が決まり、この月末に日本を発つと言う。
 「島のみんなは元気?和田さんは?――オペが終わったら、また飛
んで帰っちゃうんでしょ?」
 沈黙する五島の顔をうかがい見る咲。
 「――辞めて、来たんだ…。先のことは何も考えてない。…とにか
く今は、目の前のオペに全力を尽くすこと。僕に出来ることは、それ
しかないから…」

 ――所変わって志木那島、和田(筧利夫)と彩佳(柴咲コウ)が、
主のいなくなった診療所を守っていた。コトーのかつての足だった自
転車は倒れたままで、タケヒロらが作って立てた屋上の旗は、棒に結
んだところから切れて、地面に落ちていた。和田がそれを拾うと、旗
の真ん中に大きくかぎ裂きの裂け目があった。
 受付の机の上には、まだ村長に出せないでいるコトーの「退職届」
が置きっ放しになっている。
 「課長の具合、どうですか?胃が痛いって、寝込んどるんでしょ」
 和田は星野(小林薫)のことを心配して彩佳に尋ねる。

 漁労長の安藤(泉谷しげる)は、昼間から酒を飲みながら、星野の
病気のことを口にしているが、安藤にあいづちを打つ者は一人もいな
い。
 「…俺たちが、先生、追い出しちまうようなこと、言ったからな…」
 漁師たちはみな沈んだ面持ちで、あの日のことを後悔している。

 「星野さんに責任なんかない。でもさびしいね、コトー先生がいな
いなんて…」
 と茉莉子(大塚寧々)。原(時任三郎)も思いは同じだった。

 星野家を訪れたつる子(千石規子)が持っているのは、例のせんじ
薬。妻の昌代(朝加真由美)があがっていくよう勧めるが、つる子は
星野の顔など見たくないと断る。
 「何で、コトーを守ってやれんかったんだ?まったく…」
 床に就いていた星野に、玄関から聞こえるつる子の声がつき刺さる。
 その夜、星野は診療所まで行ってみた。人気のない真っ暗な廊下。
弱々しく立つ星野の胃がしくしく痛む。

 翌朝、定期船乗り場に車を停めたスーツ姿の星野に気づき、安藤が
声をかける。
 「どこ行くんだよ。…おまえ、まさか、東京の…!?」
 「コトー先生を連れ戻しに行くんじゃないんだ。一言、謝りたいん
だ」
 突然星野が腹を押さえながら、膝をついて倒れる。
 「何、芝居がかったこと…」
 安藤がそう言ったとたん、星野の口からどす黒い血が…!気づいた
原が飛んでやってくる。

 診療所に運び込まれた星野はみぞおちを押さえて苦しんでいる。そ
んな父親の姿を見た彩佳は、声が震え、とっさに足が動かない。
 気が動転して、血圧計もうまく持てない。和田が洗面器に入れて持
ってきた氷を受け取りそこね、床にばらまいてしまう。静かな診療所
内に、洗面器と氷の冷たい音が響きわたる。
 「聞こうか、コトー先生に。電話番号だったら、私が…」
 と和田。
 「どうして今さらそんなこと出来るの?」
 彩佳は床に散らばった氷を拾い始める。

 その夜、診療所で医学書をめくる彩佳の目が「胃ガン」のページで
止まる。父親の症状が当てはまってしまう…。病室の父は、ガンなの
かもしれない…。
 彩佳はついに思い立って、東京の五島に電話をする。
 「――父が今日、吐血しました。本土の病院と連絡をとって、出来
ることはしたので、容態は安定してます」
 「全部、一人でやってくれたの?…よく、やってくれたね」
 五島の優しいねぎらいの言葉に、目が潤みだす。彩佳は受話器を押
さえて涙声を隠す。
 「先生、これから、どうしたらいいでしょう」
 「まず本土の病院で、きちんと検査を受けること。…僕のせいだね、
僕が迷惑をかけてしまったから…」
 「先生のせいじゃ、ありません!そんなつもりでかけたわけじゃ
あ…」
 彩佳が口をつぐむ。受話器を通して、何百キロも遠く離れた五島に
伝わってくる診療所の様子、潮風の匂い、波の音…。
 「何かあったら、すぐ電話して下さいね。今僕に出来ることは、そ
れくらいしかないけど…」

 翌朝、病理室前。三上が熊谷幹事長の再検査の結果を見ている。そ
の横顔が一瞬笑ったようにゆがむ。別の医師が三上に質問してくる。
 「腹水にガン細胞が含まれているんじゃ、手術は中止ですね?」
 三上の目が、メガネの奥でおどおどと動いている。
 「五島先生は、どんな結果でも手術をすると言い張ってます」
 「無理にオペをして、もしものことがあったら…!」 
 「このことは、くれぐれも他言無用で、お願いします」
 そう言うと三上は、五島の元に向かう。

 「再検査でも、ガン細胞は見つからなかったんだね」
 三上の説明を「ウソ」とも気づかず、そのまま受け止めた五島。三
上の目がメガネの奥で冷たく光る。

 診療所では、星野がどうしても本土に行かないとごねていた。
 「もし、悪い病気だったら、どうするの?!」
 「――ガンでもかまわねえ。島に医者がいねえってことがどんなに
心細いことか…。台湾からも、本土からも、何人も医者を呼んだ。来
ては辞め、来ては辞め、今度こそと思ってる時に、やっとめぐり合え
たのが、コトー先生だった。…本土の病院なんか行かねえ!コトー先
生がいないなら死んだ方がいい!」
 急に痛みを感じた星野は、そのまま布団に突っ伏して、意識を失う。

 診療所で星野の話を聞いていたタケヒロら、子供たち。
 「おれとクニちゃんとで、コトー先生連れ戻してくる」
 タケヒロは友達3人に、その夜、東京に行く計画を打ち明ける。
 「船に乗って、バスに乗って、飛行機に乗って、また電車に乗っ
て…?」
 「飛行機、乗ったこと、あんのか?」
 「ない…、でもなんとかする」
 「星野のおじさんが、じいちゃんみたいになったら、おれ、イヤ
だ!」
 「おじさんは絶対、死なせん!」
 「金は?…おい、小遣い、持ってるだけ全部出せ!!」
 4人はポケットをまさぐって、小銭をちゃぶ台の上に乗せる。
 「368円!…どうすりゃいいんだよ…」
 「!――何、やってんだ?」
 父親の声に、慌ててお金を隠し、タケヒロらは小さくなる。

 次の日、東京では、熊谷幹事長のオペが今まさに始まろうとしてい
た。政界の大物の手術に、噂を聞きつけて集まった記者たちが玄関前
で騒いでいる。
 「こうなった以上、幹事長の容態も公表せざるをえない」
 と奥村。彼ら教授陣は、オペ室の上部からガラス越しに手術の様子
を観察している。

 「それではこれより、左上腹部内臓全摘手術を行います」
 オペが始まった。五島の持つ電気メスが、煙をわずかに上げながら、
白い腹部を切っていく。
 「!?……腹膜の表面がおかしい!」
 執刀中の五島は、ガンが、腹膜に転移しているのに気づく。
 「三上先生、細胞診の結果は良性だったんですよね?」
 「ご自分で確認されなかったんですか?“悪性”と、お伝えしたは
ずですが…?」
 五島は愕然とする。三上がウソをついたのだ。『はめられた』頭の
中でそんな言葉がざわめきだす。マスクをかけた三上の口元が笑って
いるようだ。
 「このまま、閉腹しますか?」
 何も答えず、五島はゆっくりと、患部から手をあげる。
 「五島先生は迷っておられるようなので、私が閉腹します!」
 三上が強引に閉腹しようとするが、それを遮る五島。
 「続行しましょう!患者になるべく負担をかけないように、すばや
く行います!」
 予想外の五島の行動に愕然とする三上。五島の手はすばやく、しか
も確実に動く。
 「さすが、教授の連れてきた医者だけありますね」
 オペの続行を一度は反対した教授たちだったが、今は五島のテクニ
ックに感心している。
 三上は愕然としたまま、五島のオペを見ている。患部が五島の手に
よって、きれいに取り除かれ、あとは閉腹だけとなった。
 「もう少しです!集中して行きましょう」
 と五島が声をかけたその時、オペ室の扉が開いて、手術服を身に着
けた奥村が入ってくる。
 「よくやってくれた。あとは、私が引き受けます」
 三上は、唖然としている五島の横顔を見つめる。

 難しい手術をこなした五島は、疲れて眠っているのか、それとも、
三上や奥村の卑劣さに半ばあきれて悲しんでいるのか、夕日を背に、
うつむいて腰掛けたまま動かない。三上のか細い声が聞こえ、五島は
顔を上げる。
 「…素晴らしい、オペでした…。私は、先生の腕を見くびっていま
した。先端医療から外れた方が、まさか、これほどのオペを…」
 三上はそう言うと、深く深く頭を下げる。
 「申し訳、ありませんでした…」
 しかし五島は、謝らなければならないのは自分だと言う。
 「あの日、経験の少ない君に責任を押し付け、君の医者としてのス
タートを誤らせてしまった…。ほんとにすまないことをしたと、思っ
ています」
 五島は頭を下げた後、三上に向かって微笑む。
 「僕たちは、決して自分の腕を試したり、テクニックを競うために、
オペをするわけではありません。僕らに出来ることは、患者さんの運
命を助けてあげること。それ以上でも以下でも、ありません」
 三上の目から、後悔の涙がこぼれる。
 「大学病院で働くことは素晴らしいことです。でも、それ以外の場
所でも、医者として学ぶべきことはたくさんある。どうか、そのこと
を覚えておいて下さい」
 三上は立ったまま泣き続ける。五島はそのまま部屋を出て行く。三
上は、まだ、泣いている。

 志木那島に今夜台風が再接近すると、天気予報が伝えている。テレ
ビの天気予報の画面を見ている漁師たちだったが、画面がニュースに
変わると、みなテレビから目を離す。
 『熊谷幹事長』の手術の記者会見が始まった。画面に映る奥村、隣
に座っているのは三上だった。
 「今回の手術を執刀しました、奥村です…」
 三上は奥村の言葉を、信じられないという顔で聞いている。
 「…かなり困難な手術でしたが、手術時間も短く、出血も最小限に
とどめることが出来、成功したと言えるでしょう…」
 奥村は記者たちを前に、誇らしげに説明を続ける。

 その頃五島は、スーツに着替え、荷物をまとめて医局を出て行った。
記者会見のことなど知る由もないし、聞きたくもないのだろう。その
足でまっすぐ特別室に向かい、術後の熊谷の様子を見た後、麻酔で眠
ったままの患者に一礼すると、静かに部屋を後にした。

 奥村の記者会見は続く。こんなばかげた状況に耐え切れなくなった
三上は、説明の途中でいきなり立ち上がる。
 「今回、熊谷幹事長の手術を執刀したのは、奥村教授ではなく、志
木那島診療所から招いた、五島健助先生です!!」

 「今、『志木那島の五島』って、言わなかったか?!」
 漁師たちが驚いて、テレビの前に集まってくる。

 記者会見場は騒然となる。慌てる奥村を見ようともせず、三上はカ
メラに向かって話し続ける。
 「通常では切除不可能な状態にあり、五島先生でなければ、成功は
ありえなかったでしょう!…」

 何も知らず、五島は廊下を歩く。角を曲がったところに、見知った
顔が2つ―。そこにいたのは、原とタケヒロだった。驚く五島。
 「どうすんだ、これから。どこへ行こうってんだ?!」
 「わかりません。先のことはまだ、何も…」
 五島は2人の顔を、まともに見ることが出来ない。
 「そうやって、また逃げ出すのか?――過去の事件が何だ!あんた、
それを償おうとして、それ以上のことやってきたじゃねえか!?」
 五島が顔を上げる。
 「あんた、知ってるか?子供たちが自分たちだけで東京まで来よう
としてたことを。星野さんがあんたに診てもらいたくて本土の病院に
行こうとしないことを。しげさんが、どれほど後悔しているか。内さ
んがあんたがいなくて困り果てて、せんじ薬作ってることを。彩佳が
必死で父親の治療してることを――。みんなが…」
 原は、涙で言葉に詰まる。
 「…俺が、…どれだけあんたに帰って来て欲しいかってことを!コ
トー先生!」
 原はぐっと涙を飲み込んで、最後にこう言って去っていった。
 「――俺が、言いたいのは、それだけだ。明日、朝一番で帰る。後
は好きにしてくれ」
 その様子を、咲がずっと見ていた。

 夜になり、志木那島は台風の影響で雨が降っている。今日はもう船
を出すことは出来ない。病室に一人横たわる星野を訪ねて、安藤がや
ってくる。
 「あきらめろ。コトーはもう、帰ってこねえよ。本土の病院に行こ
う」
 星野は何も言わない。
 「俺が、九九を5の段でつかえてた時、お前が教えてくれた…お前
がいなきゃ、俺の人生に九九は、なかった…」
 と安藤。
 「今夜は嵐だなあ。お前は怖がりだから、俺が一緒にいてやるヨ」
 「怖がりなのは、お前だろ」
 星野が口を開く。
 「それに九九は、5でなくて2の段でもうつかえとったぞ。2×3
が5…」
 「…明日よォ、病院に行こう、な」
 うんうんとうなずいてみせる星野。
 「お、俺よォ、正ちゃんがいなくなったら、こ、困んだよ」
 2人の会話を、廊下でそっと聞いている彩佳。外は雨。一晩中降り
続くらしい…。

 その頃、五島は咲から小包を受け取っていた。和田が『コトー先生
に』と送ってきたと言う。
 「怖がっちゃだめ。あなたらしく生きるべきよ。あなたみたいに幸
せな医者は、いないわ。島に行って、そう思ったのよ」
 五島を残し、咲は出て行った。

 静まり返った大学の講義室のいすに一人座り、「志木那島診療所」
の茶封筒の中身を開けてみる。
 分厚い古めかしいアルバムだ。和田の撮った写真が引き伸ばされて、
1枚ずつ貼ってあった。
 南国の青空と診療所、和田のアップ、星野が坂野夫妻の赤ん坊を抱
いて笑っている、日に焼けて健康的に微笑む彩佳、つる子のヘンな顔
と安心して帰って行った息子の誠、純一と母広子の笑顔、出産直後の
リカと赤ん坊にチューする安藤、はしゃぐ茉莉子とリュウ、咲の写真
もあった、あきおじとスイカを食べた夏、いつも結束の強い漁師た
ち…。1枚1枚に思い起こされる島での出来事。
 在りし日のあきおじがひまわり畑に立つ姿を収めた写真の後は、何
ページか何もない白紙。パラパラとページをめくると、写真がまた出
てきた。
 そこには、島に到着した初日、診療所前で和田が撮ってくれた写真
があった…。ひどい顔をしている。星野に請われ、東京での事件を閉
じ込めたまま、船酔いに6時間も苦しんで、やっと到着した古ぼけた
志木那島診療所。あの時、和田がカメラを向けたのを思い出した…。
全てが、ここから始まった…。

 「先生、ありがとうございました」「ありがとうございました」
 島の人たちの声が甦る。こんなひどい顔をしていた自分を変えてく
れた、あの島、島の人たち…。
 アルバムの最後には、青い海と往診かばんを載せたまんまの自転車、
潮風にはためく「ドクターコトー診療所」の旗。まるで「島に帰って
おいで」とでも言っているよう。
 アルバムを閉じた五島は、その瞬間からコトーに戻り、宙を見つめ
る。ずっといつまでもそこに座って、咲の言った“幸せ”をかみしめ
ていた――。

 翌朝。台風一過の快晴に恵まれ、星野は安藤の船で、本土に向かう
ことになった。見送りに駆けつけた山下ら漁師たち、茉莉子、子供た
ち…。
 「生きて、帰って来い!」
 と毒舌のつる子。車椅子の星野が、船に乗り込もうとした時、子供
たちが声を上げる。
 「あ!あれ、タケヒロの父ちゃんの船だ!」
 全員がじっと船を見守る。船に乗っているのは、タケヒロと原、そ
して…。
 「コトー先生!?」
 と彩佳が言うのに驚く島民たち。船尾に、あの「船酔いのおまじな
い」の生白い腕だけが力なく垂れているのに気づいた子供たちが叫び、
船を追いかけ走り出す。
 「コトー先生!!」「先生!!」
 子供たちが、彩佳が、和田が、星野、安藤……全員がコトーの乗っ
た船に駆け寄ってくる。青白い顔のコトーがみんなに向かって微笑む
が、おまじないも空しく、港を目前に海に向かって思い切り吐いてし
まう。
 船は港に着岸。「ほら」と白い歯を見せて笑う原に背中を押された
コトーは、ヘロヘロしながら島にやっと上陸する。しかし星野の姿を
見つけると、すぐに医者の顔に戻る。
 「すぐ診察します。診療所に行きましょう」

 「先生、はっきり言って下さってかまいませんから。先生に手術し
てもらえるなら、どうなっても悔いはありませんから…」
 重苦しいムードの診察室。
 「貧血とポリープが気になりますが、とりあえず薬で様子を見まし
ょう」
 「手術は…?」
 「手術は必要ありませんよ。典型的な“胃潰瘍”ですから。薬で十
分治ります」
 「?!」

 星野を心配して診療所に集まった人たちは、コトーの診断を聞いて
大笑い。人騒がせな星野はただただ平謝りに謝るだけ。
 「さ、みんなで写真撮りましょ。ほら、見て!」
 と和田がはしゃぐ。和田が指差した診療所の屋上を見上げると、わ
あっと声が上がる。

 コトーは静かに、縁あって再び生活することになったこの島で、も
う一度神聖な気持ちに立ち返り、白衣を着る。あきおじのわらじを履
き、魂を吹き込み直すかのように、診療所の廊下をゆっくり歩く。窓
からは海、潮風が心地いい。玄関に彩佳が立っている。
 「先生、お帰りなさい」
 コトーが何か答えようとした時、和田が2人に割って入る。
 「先生、来て下さい!」
 コトーが手を引かれて外に出ると、そこには、島中の人間が集まっ
ていた。コトーが帰ってきたことが、この島ではもう知れ渡っている
のだ。コトーの顔が自然にほころぶ。
 「先生!あれ!見て!!」
 とコトーはタケヒロたちが指差す方をまぶしそうに見る。

 診療所の屋根には、「ドクターコトー診療所」と白地にハデに大き
く書かれた旗…。よく見ると破れたあとが“縫合”してある。傷を負
った五島健助は、この島で“コトー”になって生まれ変わった。たく
さんの島民たちに囲まれたコトーは、いま一度、誇らしげに海風には
ためくその旗を見上げるのであった。


寸  評  「終わっちゃったあ、あー終わったなあ…。木曜10時、これか
らどうやって過ごせばいいの?」とさびしい気持ちになりました。ま
さに大団円、ハッピーエンドで本当によかったですね。原さんが最後
に初めて「コトー先生」と呼んでくれた、あのシーンが一番嬉しかっ
たです。
 こうなるとやはり「2」をぜひ!と言いたいところですが、実際は
厳しいと思うので、せめて「スペシャル」を年1、2回で、何とかフ
ジテレビさん、お願いします!!
 彩佳との関係もはっきりしなかったし、三上医師の今後も知りたい
し(きっと無医村に赴いてるはずです、そう願いたい、でしょ?)、
星野さんのポリープもまだ何かありそうだし…。細かく見るとまだま
だ含みを残してる気がしませんか?(そういえば、巽さん、いつ帰っ
たんでしょうね)
 10月からは、「コトー」とは対極といえる医療現場を舞台にした
「白い巨塔」が始まります。このあたりもフジの戦略を感じさせます。
でも、コトーを見て感動した人は、「白い…」は見ていられないかも
知れません。実は私、「白い…」のあらすじは書きたくないのです。
「コトー」が自分から消えていくのがイヤなのかも…。あー、やっぱ
り、お正月2時間スペシャルでやってくれー!「でないと、私、旅に
でてしまうよ」!

執 筆 者 三森(anponhana@mail.goo.ne.jp)

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2. 編集後記
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 このドラマのあらすじを執筆させていただいて、本当によかったと思ってい
ます。吉岡さんや時任さんはもちろん、ドラマを制作された全てのスタッフの
皆さん方にねぎらいと感謝の意をこめて、どうもありがとうございました、と
言いたいです。
 島には(実際はどうか知りませんが)、コンビニもケータイも、出て来ませ
んでした。ここ5年くらいの間に、ドラマはこの2つなしでは作れないような
お話ばかりになってしまいました。コンビニもケータイも、普通に生活するに
あたって、又コミュニケーションの道具として、たいして必要ないのだと実感
しました。
 つたない文章でお恥ずかしい限りでしたが、最終話まで無事書き終えること
ができました。お読み頂き、本当にありがとうございました。(三森)

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発行元:ドラマ研究会
e-mail:info@j-drama.tv
url   :http://www.j-drama.tv/
ID  :MM3E195F16414CD 
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