イッセー岡田のあはは天国劇場　161号 2003/12/19

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タイトル：イッセー岡田のあはは天国劇場　161号 2003/12/19

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「平良さん、すみません、さっき戻りました。」健太がそういうと傍にいた亜唯もぺこりと頭を下げた。もう立派な若夫婦という感じがした。平良は、気にするなという仕草をした。「事前に連絡しようと思ったんですが、いろいろと話が込み合っていて、ぜひ　会ってからお話しようと思ったんです。」彼らには、チームに残留するしないに関わらず、一度マンションに戻るように言ってあった。彼らの荷物も残っていたし、脱退する場合には彼ら自身の口からその事実を聞きたかったからだ。平良は、彼らはもう脱退するものと思っていた。その方が先の人生彼らのためになることは良くわかっていた。「郡山に帰って、母親といろいろ話をしました。専門学校出てからのこと、平　良さんのこと、そしてチームのこと・・・全部話しました。　そして母親は僕に言いました。　『あなたが今一番したいと思うことをしなさい。』　僕の母親は、若い頃に父と見合いをして、すぐに僕を生みました。それから　ずっと僕と父の事ばかりしてきて、自分のことができなかったんです。だか　ら僕には自分の好きな道に進んで欲しいと・・・　でも、もしいま僕が好きなことをしていたら、母の一生は他人のために働く　ばかりじゃないですか・・悩みました。そして考えた挙句昨夜、母にそのこ　とを言いました。そうしたらすごく叱られましたよ。　『あなたが今お父さんの事業継いだところで、亜唯さんに負担がかかるだけ。　　家具屋の仕事というのはそんな甘いもんじゃない。家の事業は、自分が生　　きている間は守るから、お母さんが死んだときにもう一度事業を続けるか　　どうか考えればいい。お母さんとしては、自分の息子が好きなことをやれ　　るのを邪魔はしたくない。それにパチスロで生活すると言うことは全然恥　　ずかしいことだなんて思っていない。その平良さんという人を信じている　　のなら、その人について行きなさい。そしてあなたもいつか他人にそこま　　で信頼されるような人になりなさい。』　そう言われました。　平良さん、僕も母に言われてやっとわかりました。僕が今一番したいこと、　それは平良さんについてゆくことです。お願いします。またここに置いて下　さい。」平良は、黙って健太の言うことを聞いていた。そして口を開いた。「健太・・お前本当にそれで良いのか？亜唯も・・いいのか？　この先どうなるかわからないんだぞ。俺としては今までどおりお前たちがい　れば心強いさ。でも将来に何も保証はないんだぞ？」「わかってます。でもこの決心は単なる若気の至りではありません。そう決め　ました。だから、お願いします。」「そうか、わかった、健太、亜唯・・これからも宜しく頼むな。」健太は、心から嬉しそうに涙を流した。亜唯も満面の笑顔で平良に微笑むと、さっそくエプロンをつけ、食事の支度を始めた。桐子も嬉しそうにそれを手伝った。　これでとりあえずチームは元に戻ったわけだ平良は、健太達がいない間、気まぐれな生活をしていた。桐子と二人だけの生活は心地よくはあったが、チームとしては完全に休業状態だった。彼らが戻ったことで、また新たな生活が始まるのだ。平良は、気が引き締まる思いがした。その夜、平良は東京遠征での収支報告と、戻ってきてからの収支を二人に伝えた。特に桐子が出した５万枚以上の収支は、健太も驚かざるを得なかった。「これからの稼動の拠点は、やっぱり近所のホールになるだろう。だけど問題　は桐子をそこに行かせるかどうかだ。とりあえず店長は全治３ヶ月で入院中　だが、そのまま新しい店長がくるか、それともあの店長が復帰するか・・・」ここで桐子が口を開いた。「私は大丈夫よ。だって平良さんも健太さんも亜唯さんもいるもの。あの人だ　って馬鹿じゃない。私に何かすればどういう目にあうかぐらいは、忘れない　はずだわ・・・」平良のあの夜の行動のことを言っているのだろう。健太と亜唯は知る由もなかったが、その辺に関しては特に何か平良が突っ込まれるようなことはなかった。もしかしたら健太や亜唯もうすうす感付いているのかも知れない。「よし、じゃ今後は桐子も加えた４人で攻めることにしよう。幸いなことに今　の時点では設定を打ってるのは主任だ。だからその日の設定は丸わかりだ。　それと、先日あるルートから店のデータベースのアクセス用の極秘のＵＲＬ　を入手した。今もつかえるかどうかわからないが、これをみると過去の設定　履歴と差枚数がわかる。もし店長が交代しても、そこから設定変更のパター　ンはすぐに読めるようになると思う。」健太が歓声を上げた。「え？店の極秘ＵＲＬですか？そりゃ凄いな。もしかしたら、あの店はチェー　ンだから、アクセスの方法を探ってみれば、翌日の予定設定も見れるかも知　れませんよ。たぶん事前に本社に予定設定を打診してるでしょうからね。」平良は、健太にＵＲＬを教えた。翌日の設定までは期待はしていなかったが、これが使えれば問題なく有利に立てる事がわかっていた。「それと、先日東京で荒稼ぎしたライジングサンⅤの攻略だが、ある組織に、　５０００万円で売却した。組関係が絡んでいるから、我々は絶対に使わない　ようにな。危険すぎるからな・・」「すでにネットあたりでは、その手の攻略があるんじゃないか・・ぐらいの噂　は出てきています。おおっぴらになるのも時間の問題でしょうね。」「ねぇ平良さん、どうしてあの攻略を売ってしまったの？、自分達の中にとど　めておいても良かったんじゃない？そうすれば次のＮ社の新台にも通用する　かもしれないのに・・・」亜唯が言った。確かに亜唯の言うことも正しいかもしれない。平良は攻略を売却したことに関して、一応自分の考えを言った。「確かに俺も迷った。迷った末に売ることに決めた。その辺をみんなに相談し　なかったの悪かったと思っている。おまけに俺の不注意から、桐子を危険な　目にもあわせてしまった。その辺は素直に反省したい。　でもな・・あの攻略に関しては、たぶんメーカーの『仕込み』で間違いない　だろう。プログラム上で、連チャン数振り分けるルーチンの振り分け方が不　自然だ。通常は最後の振り分けには『その他』を包括的に使うはずだ。そう　すれば、今回のNULL値のような例外はなくなるはずだ。それが一般的だ。　それに、NULLを発生させたクレジットオフも不自然だ。詳しい解析データを　見ると、乱数値を取得するために『あと何枚コインが入るか』の数値を除算　に使っているのだが、当然のように５３枚入れた状態、つまりあと１枚も入　らない状態では、ゼロでの割り算するわけだからエラーになる。解析上はそ　れを補うために別の乱数値をわざわざその後に割り当てている。　プログラムを組むプロがそんな非能率的な事をするのは不自然すぎるだろ？　つまりメーカーの故意『仕込み』だとすれば、大元からどんなルートに行く　かは見当もつかない。もっともっとヤバイ組織に行く可能性も大きい。そう　なる前に処分をしてしまいたかったんだ。恐らくＮ社は次の新台ではこの仕　込みはしないはずだ。　今回俺がこの攻略を売った先は、儲けた事だろう。それで良いんだ。俺たち　が安全な間に稼動を続けてもたぶんあと５０００万円は稼げない。後は、危　険を承知でやる者たちが出入禁止も覚悟でやるものだからな・・・。それと　今回の攻略で、ひとつ信用のある販売ルートが確保できた。それも大きな収　穫だろう。」山木のところは、油断こそ出来ないがその後しつこく連絡はしてこなかった。特に変な動きをしてもいないようだった。その世界ではそれなりに信用のある会社なのだろう。「さすがは、平良さんだわ、普通は、そこまでなかなか考えないわね。ごめん　なさいね、女は欲張りだから・・・」亜唯は、おどけたような仕草で笑った。結局、翌日はマンション近くのホールで、偵察がてら各自好きな台を打つことにして、打ち合わせを終えた。健太は、先ほどの極秘ＵＲＬをハッキングしてみる、と亜唯を残して自室にもどった。桐子は、眠いから寝ます、と言って平良の寝室に向かった。平良と亜唯が残った。「なぁ亜唯・・おまえはこれでいいのか？つまり健太と二人でチームに残留す　ることに賛成なのか？」平良は、亜唯に確認のために質問してみた。「そうねぇ・・女って打算的なの。ついていく男によって自分の人生が変わる　といつも思っているのよ。そういう意味ではいつも受身なのね。健太のお母　さんも結婚した時はそうだった。それで実際にご主人・・健太のお父さんね、　が亡くなったら、そのついていく人がいなくなった。でもね、女の人って受　動的だけど強いの。以前何かで読んだことがあるのだけれど、夫に先立たれ　た女性は長生きするけど、逆に奥さんに先立たれた夫は早死にするって・・　ふふふ・・おかしいでしょ？　だから、私は健太についてゆく、それが当たり前よ。でもそれは決して男に　流されてるわけではなく、自分のためだと思ってるわ。」平良は、苦笑するように笑った。この亜唯という若い女は自分の生き方をいつも冷静に見ている。無駄な質問をしたのかも知れない・・「でも、女っていつも恋をしたいものなのよ。それがついてゆく男とは限らな　いわ・・。だからここに戻って来たのかもしれないわね・・・。　じゃあ健太の仕事を手伝ってくるわね。」そう言って、亜唯は寝室に向かった。平良は、亜唯の言葉の真意をはかりかねていた。しかしそれ以上深く考えることはやめた。人の気持ちなんて一言で言い表せるものじゃない、亜唯は今まで通り有能なチームの一員、それで良い・・と思うことにした。 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