イッセー岡田のあはは天国劇場　148号 2003/11/04

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タイトル：イッセー岡田のあはは天国劇場　148号 2003/11/04

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平良たち４人のハードなロード生活は始まった。まず翌朝、川越に向かい、２店でことごとく抜いた。アクシデントらしいアクシデントはなかったが、ギャラリーが集まってしまったのには困った。確かに千両箱を積み上げた男女が同じシマにいれば目立つことは避けられない。特に桐子がつかんだ台は『大当たり』で、ストックがかなり溜まっていたようだ。つまり新装からずっと低設定に入れられていたのだ。かなりのボッタ店だった。結局桐子は、平良が取りきって他店に移動したあと閉店まで連チャンが続いた。見慣れない顔がことごとく出すその様を見て、客は「サクラか？」と思い、店は「ゴトか？」と怪しむ。いつもの図式だ。　いつもは怪しまれないように、ＢＩＧ中の小役ゲームはちゃんと取っていたが、考えてみれば時間効率が下がることに気付き、最初のセットのとき以外はすべてフリー打ちで消化するようにした。そのために１回のＢＩＧでの獲得枚数はさがったが、そのためにＲＥＧも含め１時間で２０回近くボーナスが取れるようになった。翌日は、大宮に移動した。これらの都市は東京圏とはある意味独立している。そしてそれらの都市同士は、情報を共有することが少ない。つまり前日川越で荒稼ぎした情報は、隣の大宮には伝わっていない。同じチェーンの店を攻めない限り、朝一は常に無警戒の状態で稼動出来るのだ。大宮にはライジングサンⅤの設置店は１店舗しかなかった。しかも設置台数は４台のみ。朝から４人ならんでシマを占拠した。客付きの悪い店で、いきなりシマに見慣れない４人が座ってる光景も異常だったが、やる気のない店だったのが幸いして、いきなり警戒されるようなことはなかった。問題はストックがどの位溜まっているかだった。恐らくいちばんストックがあるだろう角台には亜唯を座らせた。そして健太、平良、桐子の順に座った。女性陣が先にストックを取りきらないように配慮したのだった。男性陣が先に取り終えておけば、女性陣が換金所に行く際にも警護が可能だからだ。これだとスピード効率は落ちるように見えるが、亜唯も桐子も男性陣に引けを取らないほどの腕前だから問題はなかった。最初にＢＩＧをつけたのは健太だった。そして連チャン開始。次に亜唯。そして桐子。最後は初ＢＩＧまでに６００Ｇかかった平良だった。健太が既に３０００枚ほど持っていて女性陣も連チャン中だったので、セットは苦労した。いきなりの連チャン連発で、店員達が遠くから様子をうかがっていたからだ。しかし幸いなことに残り１５Ｇからまったくリプレイが揃わず、あっけなくパンクしてくれた。こうなれば後は簡単だった。無事、平良も連チャンスタート。一シマ一斉にランプがつき続ける光景は異様だった。常に誰かがコイン補給を受けているという状態になった。途中、遅い出勤をしてきた店長がシマの後ろに貼り付いたりしたが、どうすることも出来ずに、ついに４人とも閉店まで出続けたのだった。時間効率から考えて稼ぎは恐らく今までで最高だろう。翌日は熊谷・・その次は宇都宮・・そして高崎・・毎日の稼動が続いた。いろいろなアクシデントがあった。サイトにある設置台の情報が更新されていなく既に撤去になっていた店、なぜかすべての台のクレジットボタンが効かない店、出玉に驚いて途中で閉店する店・・様々なトラブルがあったが、致命的なトラブルは一切なく、無事収支は積みあがっていった。ところが、横須賀あたりに来ると、台に張り紙が見られるようになった。　「変則打ち禁止　当店で通常の遊戯をされていないと判断したお客様には出　　玉の没収等の措置をさせていただく場合があります」徐々に噂は広まっているようだ。ただ、変則打ちはしていないし、その他セット時以外は特に怪しい打ち方をする必要がなかったので、結局何事もなく稼動は続いた。店としても、何かの攻略があることはわかっていたが、それがどういう手順でされているか、まだ掴んでいない状態なのだろう。関東を大外で回り始めて１４都市目の八王子。メンバーの疲労も頂点に達していた。いちばん体力に自身のあった平良でさえ、右腕に痺れを感じ始めていた。ここでの稼動を済ませれば、もうこの攻略ともおさらばだ。あとはこれを闇ルートに売れば、チームの休日は訪れる・・・稼動最終日の前日深夜。平良はメンバーを集めて言った。「みんな、ご苦労様。明日の稼動が終わればしばらく休養だ。　そこでみんなに提案がある。どっか南の島でも行ってゆっくりしようと思う　のだが、みんなどうだろう？」女性陣から嬌声が上がった。健太も含め、彼らはまだ遊びたい盛りなのだ。しかし健太は違っていた。ぼおっとしたような表情で特に喜びを表そうとはしなかった。亜唯も健太の表情に気がついたのか、急に黙り込んでしまった。「どうした？健太、暑いところは苦手か？　ついでといっちゃ何だが、お前と亜唯の結婚式もそこでやったらどうだ？　結婚式といっても、ごく内輪のものだが・・・」平良がこう言い終る前に、突然という感じで亜唯が泣き出した。平良は自分でも承知してるように女心は良くわからなかった。　嬉しいのか？何か事情があるのか？どうして泣くんだろう・・平良は困惑した。彼らに何があったんだろう？それが理解できない自分にいらだたしさを感じざるを得なかった。亜唯が平良の困惑をほぐすように口を開いた。「平良さん、ごめんなさい。実は・・・　１週間前、健太のお母さんから健太に電話があったの・・・」「よせ！亜唯・・」健太は亜唯を制止しようとした。「いいじゃないの、健太。自分の大事なことを平良さんに隠しておく事のほう　がいけないことだと思うよ・・いいわね？全部言うわよ・・・　健太のお父さんが危篤なの。それで、実家の家業のこともあるし・・それに　チームの稼動のこともあるし・・・それで・・」亜唯の話を聞きながら、平良は自分の気の効かなさを自責していた。自分のチームの稼動のために、知らず知らずのうちに健太に無理をさせていたのだ。亜唯は家具デザイナー志望だった。健太の実家が家具屋だということで、彼らの付き合いは始まったらしい。健太の父親に何かあれば、一人息子の健太には家を継ぐかどうかという選択肢がそこには待っていたのだった。うつむいて黙っていた健太が重い口を開いた。「すいません平良さん。今まで隠していて・・　実はさっき親父が死んだという連絡が入りました。でも気にしないで下さい。　自分は平良さんについていくことに決めていますから。葬式の方は明日の稼　動が終わったら郡山に行ってこようと思います。　ただ旅行の件と、結婚式の件は・・」「そうか、お悔やみを言わせてもらうよ・・・　だが、健太。いますぐ行ってやれ。お母さんに寂しい思いをさせちゃダメだ。　家業を継ぐかどうかは自分自身でもう一度考えて決めろ。俺のことなどいっ　さい気にしなくてもいい。わかったな？　それと亜唯・・お前も健太について行ってやってくれ。そして、健太の実家　の家族に挨拶してくるんだ。いいな？　二人とも、まずはそれだけやってから、その後で、このままチームに残るか　抜けるか考えてくれ・・・もしやめることになったら、当初二人がしばらく　困らないぐらいの退職金は払う。いままでやってこれたのはお前たちのおか　げだからな。　でもうぬぼれるなよ。俺は一人になっても生きてゆける人間だ。俺を基準に　物事を決めるんじゃないぞ。自分たちにとっていちばん良い方法を二人して　見つけて来るんだ・・」健太と亜唯、二人はうつむいたまま、さしたる抵抗見せず平良の言葉に頷いた。翌朝、健太と亜唯は郡山にある健太の実家に向かった。最終日は桐子と２人だけの稼動だった。別れ際、亜唯は泣きじゃくっていた。健太は相変わらずうなだれたままだった。「二人だけになっちまったな・・」平良が、桐子にぽつりと言った。そうね、と目で言ったまま桐子は黙っていた。二人きりの稼動だったが、最終日も問題なく終わった。この旅での合計売上はプラス２５００万以上になっていた。宿泊や移動の費用を除いても２０００万円以上は稼いだことになる。半月の稼動にしては出来すぎだった。平良には、まだやらなければならない仕事があった。攻略法を売却するという大仕事だった。これには危険が伴うために桐子と一緒に行動することはできなかった。桐子はさして嫌がりもせず、先に地元のマンションに帰るために新幹線に乗り込んだ。「必ず戻るから」と桐子に言い、二人は別れた。亜唯と違って桐子は泣かなかった。まず安さんに電話を入れる。「安さん？、先日送ったライジングサンＶ攻略の解析は雑誌社に流してもらっ　て構わないよ。」「どうやら派手にやってるみたいだね。情報は入ってきてるぜ。手順は皆目わ　からないがね。まぁ俺には関係ねぇことだ。その手の情報を取り扱うほど肝　っ玉は据わってねぇからな・・ははは・・」「もう情報が行ってるかい？さすがは安さんだ、早いな。　ところで、頼りになる安さんにひとつお願いがあるんだが・・」「なんだい、平良さんの言うことなら何でも聞くぜ・・なんなら女房くれてや　ってもいいぜ・・・はははは・・・」「遠慮しとくよ。奥さんは大事にしなよ・・　実はな、これから攻略をあるルートに売り込むんだ。一応安心なルートを選　んだんだが、モノがモノだけにちょっといつもより危ない橋を渡らなきゃな　らないと思うんだ。だから俺にもしものことがあったら・・・」「おいおい、何を言うんだよ。あんたが死ぬわけないじゃないか。わかったよ、　一応聞いておくがな、余計な心配だと思ってるぜ。じゃあな。」安さんは笑いながら電話を切った。実際、これから平良がしようとすることはかなり危険なことだった。　健太と亜唯には、郡山の家があるだろうし、　桐子は今まで一人で生きてきた女だ、きっと何があっても大丈夫だろう・・平良は自分にそう言い聞かせ、次のダイアルをプッシュした。 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