イッセー岡田のあはは天国劇場　146号 2003/10/22

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タイトル：イッセー岡田のあはは天国劇場　146号 2003/10/22

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深夜１時。翌日の上野での２日目の稼動に備えて４人は眠りについた。平良が横たわっていたダブルのベッドに桐子がもぐりこんだ。「コイン・・たくさん出たわね・・」「そうだな・・しばらくの間、毎日こんな感じかな？・・」「明日は、私とあなたが同じホールね。私も朝から打ってはダメかしら。」「一応念には念を入れておかないとな・・。もし俺たちが同じグループだとわ　かれば、いろいろとちょっかいを出してくるヤツが出てくるだろうからな。　さぁ今日はもう寝よう・・」平良は、桐子がそんな基本的なことも理解せずに今日一日打っていたことに対して、少し戸惑った。本当に彼女をチームに加えて大丈夫だったのか？、そもそも今回の攻略は桐子がいたから出来たようなものだから、そんなことを考えること自体、おかしなことだったが、桐子にはその精神感覚の鋭さを持ちながら、一方でチームの致命傷となりうるような非常事態を招く稚拙さも持ち合わせていた。亜唯なら完璧に理解できるチームワークも、桐子には無関係の世界なのかもしれない。いずれにせよ、桐子の行動は平良自身が責任もって管理してゆかなければいけないな、と再認識した。いろんなことを考えながら、平良は夢の中に入っていった・・　何もない真っ白な白い部屋・・　健太と亜唯が仲良く並んで平良の方を見て微笑んでいる・・　桐子？・・桐子は・・・どこに・・？　すると健太が言う　キリコ？さん？って誰ですか？　健太、何を言ってるんだ、桐子は桐子だ！彼女はどこに行ったんだ？！　それでも健太は笑っている・・　亜唯がちょっと悲しそうな顔をして平良に言う　　桐子さんは、この世には存在しないのよ　　でもいるわ、彼女・・みんなの心の中に・・・　　健太は鈍感だからわからないの　違う！彼女はそんな架空の存在じゃない、桐子は桐子だ！！　わめき続ける平良に健太と亜唯の二人は、愛想を尽かしたような表情をして　消えてしまう・・・　おい、待て・・・・俺はどうしたら良いんだ・・いったい俺は・・　すると目の前に半透明の桐子の姿が浮かぶ・・　　亜唯さんが正しいわ・・私はあなたの心の中にいるの・・　　でも、こういう存在はちょっと寂しいわ・・実体が欲しいの　　ねぇ平良さん・・私に光をあてて・・お願い・・　桐子はそこまで言うとフェードアウトするように姿を消した　桐子・・・桐子ぉ！！！・・・・・全身汗だくの状態で平良は目を覚ました。胸元ではちゃんと桐子は平良にしがみつくように寝ていた。それを見た瞬間、平良は体の中から搾り出すような安堵のため息をついた。　夢か・・夢でよかった・・・まだ痺れる頭を振りながら時計をみると、午前７時３０分だった。ホールに並び始めるのは８時３０分で良いだろう。その時ちょうど健太からの内線が鳴った。「おはようございます。僕は、８時ぐらいに出ようと思いますが・・。」「わかった、俺は８時２０分頃にしようと思う。何かあったらすぐに携帯に連　絡を入れてくれ」「わかりました。今日も頑張りましょう、お互い・・」今日のホールは、徹夜組がすでに並んでいた。平良の順番は２０番ぐらいか？近くに並んでいた若者が、ライジングサンⅤの話をしていた。昨日の出方がもうすでに広まったのかもしれない。なんせ２万枚近く出た台が１日に４台もこの狭いエリアで出たのだから・・。もしかすると今日は朝の台が取れないかもしれないという不安が平良を襲った。入場が始まり、平良は急いでライジングサンⅤに向かった。昨日みかけたような顔はなかった。なぜならシマは無人だったからだ。いくら昨日この台が出たからといっても、やはり若者達は人気のＡＴ機に向かったようだった。昨日の店と違って、開店の１０時になってもこの台に座る客はいなかった。誰もいないというのも逆に目立ちすぎて嫌だったが、平良は自分の選んだ台をゆっくりと回し始めた。今日の平良のいでたちは昨日とまるっきり違っていたから、もし昨日の平良を見ている人間が今日の平良を見かけたとしても、すぐには気付かれないはずだった。他の３人もそれぞれ見かけのイメージをかなり変えてるだろうから、必要以上の心配は要らないだろう。平良が最初のＢＩＧを引きあてるのに、１時間以上かかった。手順をこなすことにはもう緊張はしなかった。それよりその後の出玉の凄さが気になった。何時間にもわたって延々と１Ｇ連チャンをし続けるのだから・・昨日と同じように残り７Ｇから順押しにしたが、完走はしなかった。ノーマルな連チャンが始まった。続いて３５ＧでＲＥＧ、そして１００Ｇあたりで再度ＢＩＧが入った。こういうところはキンパルを打ってるのと同じ感覚だった。平良は、ここで思い切って残り６Ｇまでリプはずしすることにした。狙い通りパンクした。わざとらしくちょっと悔しがり、手順を完了。長い長い１Ｇ連チャンが始まった。頭上のドル箱が置ききれなくなったあとは、出玉が極力目立たないように、足元に何箱か積んでいたが、それに気がついた店員が無断で引っ張り出し、派手派手しい千両箱に入れ替えてしまった。地元のホールでも客寄せパンダになることは慣れていたが、やはり平良はちょっと気恥ずかしく思った。どうやらホールの「人寄せパンダ計画」は成功したらしく、徐々にライジングサンⅤのシマは人で埋まって行った。おまけに嘘かホントか、シマの全台に『設定５or６』の札をつけていった。平良は少し慌てた。今こんな札を立てられたら、桐子が夕方来た時に台に座ることができない。急いで桐子に連絡を取った。予定を変更してすぐに打たせるためだ。そしてさりげなく自分の予備のタバコを別の台の下皿に忍ばせて桐子が来るまでの間、キープしておいた。１０分後、すでにシマが満台になりかけたとき、桐子が現れた。平良は一瞬、あらわれた女が桐子とはわからなかった。赤いルージュをひききつめの眉を描き、赤のレザージャケットを着たその姿は、日頃の桐子のイメージとはかけ離れたものだった。平良は桐子に軽く目配せをして、押さえてある台を示唆した。桐子は何食わぬ顔で平良がキープした台にすわった。打っていた平良はあることに気がついた。昨夜寝る前に桐子が行った言葉・・　明日は、私とあなたが同じホールね。私も朝から打ってはダメかしら。彼女は、こうなることがきっと分かっていたのかも知れない。自分が彼女の言うことを素直に聞いていれば、余計なリスクをおかさずに済んだのか？考えてみれば、今まですべて桐子が言うとおりに物事が運んできた。この先、余計なことを考えずに彼女の言うことを聞いていればいいのだろうか・・・しかし・・・この日も多少のアクシデントはあったものの、稼動は無事に終了した。戦果は昨日に匹敵する金額だった。しかし毎日こうはうまくいかない。いずれこの上野での２日間の自分達の戦果は各地に広がり、マークはきつくなってくるに違いない。ライジングサンⅤの撤去も進むことだろう。自分達を目撃した人間がインターネットでその情報を各地に広めることだろう。　意外と短い旅になるかも知れないな・・・平良は、作戦を短期戦に切り替えることを考えていた。ホテルに戻った４人は、部屋で今後のスケジュールについて話し合った。「２日間で予想通り以上の収支を上げることができた。やはりこの攻略の爆発　力は半端じゃないということだな。ところが、その瞬発力ゆえに目立ちすぎ　ることは打っていてわかったと思う。ライジングサンＶの設置店が多いとい　うことでこの東京を選んだが、攻略の寿命を考えると失敗だったのかもしれ　ないな。　そこで急遽予定を変更して、関東の近郊店を集中的に攻めて行きたいと思う。　川越・・大宮・・熊谷・・宇都宮・・高崎・・つまりまず北の方面だ。そし　て時計回りに、水戸・・我孫子・・横須賀・・藤沢・・八王子・・　つまり関東を大外で回るという感じだな。　それぞれの都市で２組でダブルヘッダーで一気に抜く。朝一から取り始めれ　ば夕方には取りきれるはずだ。そうしたら先に取りきった者が次のホールに　行く。そして次の店で台を確保する。時間効率を上げるために、最初のＢＩ　Ｇで確実にセットを決める。１件目では最後の『だらだら連チャン』はとら　ない。すぐに次へ移動するんだ。各都市に滞在するのは１日ずつだ。　かなりハードな日程になると思うが、なんとか頑張って欲しい。」健太、亜唯、桐子の３人は平良の意見にみな頷いた。みんなこの２日間で疲れているだろうにそんな素振りも見せずに快く平良のやりかたに従ってくれる。「この日程を消化したら、この攻略は裏のルートで売却したい。俺たちが今後　フルに実践するにはリスクが大きすぎるし、売却代金を稼げる保証もない。　せっかくの攻略だが、それが一番良いと思う。」「そうですか・・もったいないような気もしますが・・でも危険が大きいのは　よくわかります。それにいつまでもこんな稼動をしていたら感覚がおかしく　なってしまいますものね・・それがいいと思いますよ。」健太が、同意をしてる間、女性陣も健太の意見に頷いていた。「ありがとう、健太。それと、攻略以外の解析結果は安さんに流しておいてく　れ。機械代金とお礼の代わりだ。俺たちの稼動が終わったら、雑誌社に横流　しさせるがそれはみんな承諾してくれ・・」亜唯が、口を挟んだ。「そのことは最初から安さんと約束したことだろうから、平良さんに任せるわ。　ところで平良さん。さっき、闇のルートで攻略を売る、って言ったけど、大　丈夫なの？当然、かたぎの世界じゃないわよね？私たち交渉事は全部平良さ　んに任せっきりだから、平良さんが無理をしてるのではないか、って少し心　配なの・・」「ご心配ありがとう。大丈夫さ。そういうことはお手の物さ。タネを明かして　しまえば・・昔、右翼団体にいたことがあるって言っただろ？　当時の仲間がその筋で幅を利かせてるんだ。純粋な国内の組織さ。彼らは大　陸系と比べれば紳士的だよ。ま・・比べればの話だがね・・」平良は、笑いながら言い、亜唯の心配を拭い去ろうとした。確かに危険が付きまとうことは平良は充分わかっていた。しかし、それが平良の役目なのだ。平良が一番平良らしくいられる瞬間なのだ。仮に、交渉に失敗して命を落としても平良はそれでも良いと思っていた。ただ、そういうダークな世界に自分以外の３人を巻き込むことだけは避けたかった。 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