メルマガ:少女の性シリーズ
タイトル:少女の性 711  2026/02/22


少女の性 第七百十一部

店員が去ると、宏一はオニオコゼを食べ始めた。ヒレに塩が付いているので塩と醤油と両方の味で楽しめる。焼き魚の繊細な味を楽しむにはフルーティな香りの強い大吟醸より米のコクがはっきり感じられる普通酒や純米酒の方が絶対に合う。宏一は届いた純米酒を飲みながら宏一は大切に食べていった。オコゼの淡泊な味が酒とマッチしてとても美味しかった。

すると、美咲が煮物を持ってきた。

「スズキなんですが、治部煮にしてみました。どうでしょう?」
「金沢の名物ですよね?魚の治部煮は珍しい。これは楽しみだ」
「はい、焚き物にはスズキが合うと思うんです。これならお酒にもよく合いますよ」
「たしかに、淡泊な煮物にスズキなら合いますよね」
「良かった。それで、今日もあの店に寄っていかれますか?」

突然の声がけに宏一は一瞬理解が追いつかなかったが、ここで間を開けてはいけない。

「はい、少し寄っていこうかと」

特に行こうと思っていたわけではないが、時間もあるのでとっさにそう言った。すると美咲も相づちを打つように答えた。

「私も後で」

美咲はさらっとそれだけ言うと奥に下がっていった。それから宏一は出た物を順番に純米酒で楽しんでいったが、もう美咲が顔を出すことはなかった。ただ、最後にミニ天丼が出された所を見ると、美咲が作ってくれたのだろうと想像した。
宏一は前回美咲と偶然会ったのは何時頃だったろうと考えたが、たぶん9時近かったと思い出し、その前に少し余裕を持って先に店に行っておこうと8時半頃に店を出た。そして前回美咲と行ったバーにたどり着くと、驚いたことに既に美咲が来ていた。

「あれ?もう?」
「こんばんは、お先にいただいてます」

バーカウンターの美咲は既にカクテルを飲んでいた。

「マルゲリータですか?美味しそうですね」

宏一はそう言って美咲の横に座ると同じものを頼んだ。

「高橋さん、もっと遅くなるかと思って、これでも少し前に来たつもりだったのに」
「そうですか。実は私も今来たところなんです」
「こんなところで言うのも何ですが、今日も素晴らしいお料理、ありがとうございました」
「いえいえ、こちらこそ、高価な食材を召し上がっていただき、ありがとうございました」
「本当にどれも美味しかったですよ。きちんとしたものばかりで、丁寧な性格の人なんだなぁって思いました」
「私の性格ですか?プライベートはぜんぜん違いますよ。仕事だからです。しっかり仕込まれましたから」
「スイッチが入ってると性格が変わるってことですか?」
「そうですね。お客様に喜んでいただくことに集中しますから」
「でも、仕事を終わってプライベートの時間になっても素敵な服だし、こんなお洒落なバーに寄ってるし、そんないい加減な性格じゃぁなさそうですね」
「嫌だ、そんな風に言わないで下さい。口説いてるって誤解しちゃいますよ」

美咲はそう笑顔で言った。

「失礼しました。そうですよね。美人はそう言うところにいつも気を遣わなくちゃいけないから大変ですよね」

美咲は美人と言われたことより、気を遣うという方に反応した。

「気を遣うって、私がですか?」
「もし違ってたらごめんなさい。私の飲み友達に美人の女性がいて、その女性が口説いて、いや口説いてって言うのは愚痴を言う方ですが、ぐだぐだ口説いてたんです。いつもお給料は全部そっち方面にとんでっちゃうって。高い美容院に行って服を買って、化粧品だって大変だって」
「へぇ、三谷さんにそんなに気持ちを許して愚痴を言う女性との飲み会なんて素敵ですね」
「いえいえ、飲み友達仲間で飲みに行くと気を許すって言えばそうですけど、女の子の愚痴をみんなで慰め合ってるようなものですから。他の子もそうですけど、みんな会社の飲み会では水割りとかカクテル1杯くらいしか飲まないのに、愚痴りながらだと一人一本平気でワインを空けちゃうんですよ」
「へぇ、私もそんな飲み会、参加してみたいな」
「どうぞどうぞ。機会があれば是非」

宏一はそう言ったが、二人共そんな機会は先ず来ないことを知っていた。なんと言っても活動時間帯も場所も違うのだ。たまたま今の時間だけが共通の時間帯なだけだ。

「それで、高橋さんがこのお店を気に入っている理由って、何ですか?」
「店に近くて安心して飲める、って事ですね」
「安心してって言うのは・・・・・・・??」
「店の若いのも来ませんし、お会計も含めてです」
「それじゃ、店長さんには失礼かもしれませんが、もし良かったら今日は私に出させていただけないでしょうか?」

宏一がそう言うと、美咲は少し考え込んだが、直ぐに言った。

「よろしいんですか?」
「もちろん」
「お店でサービスなんてできないですよ?」
「何をおっしゃいます。今日もいっぱいサービスしてくださったじゃないですか。あんなの、この辺りじゃなかなかいただけないですよ」
「あれはお店の・・・・・」
「仕入れのことは分かりませんが、あれこそサービスの本質だと思います。本当に美味しかった。心から楽しめて幸せでしたよ」
「ありがとうございます」
「ホタテのフライとか、オコゼの焼き物とか、なかなか普段はお目にかかることが無いですからね。鰯だって新鮮だったし」
「そう言っていただけて楽になりました」
「ところで、そのマルゲリータ以外には、どんなカクテルを飲むんですか?」
「私、あんまり知らないんです。だからこればっかりで」
「良いじゃないですか。美味しいですから。それじゃ、次もマルゲリータ?」
「それじゃ、三谷さん、何かオススメしていただけますか?」
「う〜ん、好みが分からないからなぁ。それじゃ、仕事上がりだからちょっと甘くても良いですか?」
「はい」
「分かりました。私もそんなに知らないんですが」

そう言うと宏一は自分にマンハッタン、美咲にはテキーラサンライズを頼んだ。

「あ、聞いたことがあります。でも飲んだことは・・・・・・」
「テキーラベースのロングカクテルですが、テキーラとかは?」
「多分無いと思います」
「いろいろ入ってるからテキーラっぽくはないですけど、香りが独特なんでお好みに会えば良いんですけど」
「三谷さんのマンハッタンて言うのは?」
「ウィスキーベースのカクテルですよ」
「お好きなんですか?」
「そうなんです。ちょっと思い出というほどのものじゃないけど、これが好きになって以来、必ず飲みますね」
「それって、好きになった理由、伺っても良いですか?」
「たいした話じゃないですけど、良いですか?」
「はい」

もちろん美咲はカクテルの話をしたいわけでは無く、宏一に話を合わせているだけなのは宏一も分かっていた。お会計を持つ分の美咲のサービス料のようなものだ。

「アメリカにいたとき、ある日思い立って住んでいた街からミネアポリスに遊びに行ったんです。真っ直ぐ北に800キロ。その途中で一泊した小さな街のレストランでステーキと一緒にマンハッタンを頼んだんですけど、これが全然通じなくて・・・・・」
「英語が苦手だったんですか?」
「もちろん苦手は苦手だったんですが、マンハッタンて日本語だとマを強く言うじゃ無いですか。アクセントで。でも、それじゃ全然通じなくて、何回か繰り返したら通じたんですけど、マンハッタンてマはすごく弱く言ってハを強く言わないと通じないんですよ。それが新鮮な驚きで、それ以来、カクテルを頼むときにはこの話を思い出しながら注文するんです」
「おもしろいですね。それにステーキにカクテルっていうのも」
「そうですね。日本ではカクテルを料理と合わせるなんてないですからね。アメリカは飲酒運転OKなんで、レストランにはどこもカクテルとかを出すバーがありますよ。日本酒だって甘いんだから、カクテルだってきっと合うんですね。ステーキにバーボンを掛けて焼いたりもするし。週末とかは若者がレストランのバーにたかって飲みながらワイワイ騒いでますよ」
「面白いですね。日本じゃあんまり無いかも・・・・・アメリカにはこういうバーって無いんですか?」
「ありますけど、こういう店は大都市に限られてるんです。アメリカは壮大な田舎町の集合体ですからね。田舎のバーはちょっと雰囲気が暗くて若者が集まるような店じゃないんですよ」

「でも、レストランでカクテルって、食事に甘いお酒ってどうなんですか?」
「居酒屋でも梅酒なんか出す店は多いんだから、きっとアリなんですよ。向こうはビーフステーキにジャムを塗って食べる国ですからね」
「ええっ?ジャム?あ・・・・・でも、そうですね。ウチもあります。梅酒」
「そうか、それじゃ今度は梅酒で頼んでみようかな」
「でも、実は梅酒に合う味付けって難しいんですよ。梅の味って結構強いので」
「そうか。確かに。高橋さんは日本酒で作った梅酒って飲んだことありますか?」
「はい、あります。日本酒で作った梅酒なら味がマイルドだから料理によく合いますね」
「そうなんだ。やっぱり和食って日本酒と合わせるように作られてるんですね」
「料理にも使いますから」
「あぁ、料理酒か。お店では日本酒を使うんですよね」
「そうなんです」

そこまで二人で一気に話して話題は一息ついた感じだ。今度は美咲から宏一に話を振ってきた。

「三谷さん、いつもは何を召し上がるんですか?」
「お店でもそうですけど、最初はビールです。それから、美味しい日本酒があれば日本酒、ワインがあればワインですけど、無ければずっとビールですね。高橋さんは?」
「私はカクテルが多いですね。仕事柄日本酒はもう結構という感じなので」
「ビールは?」
「お腹がいっぱいになっちゃって。別に嫌いではないですけど」
「そうですか。それじゃ、外食も和食以外ですか?」
「そうですね。和食だと仕事モードに入っちゃって楽しめないから」
「それって一種の職業病ですかね」
「そうだと思います。三谷さんは和食以外だと、どんな料理が好きなんですか?」
「私は何でもOKですよ。本当にいろいろ食べます。珍しい外国の料理も大好きです」
「それじゃ教えてください。どの国の料理が一番気に入りましたか?」
「う〜ん、難しいなぁ。料理はどれもその国の文化そのものだから美味しさも国ごとだし、そうだなぁ、強いて言えば中華料理かメキシコ料理、あとはスペイン料理ですかね」

「その中で一番は?」
「うわぁ、そこまで追い込みますか。そうですね。スペイン料理ですね」
「理由は?」
「中華は東洋系なので調味料も似ているから慣れているというのがありますけど、スペイン料理はオリーブオイルをベースにした多彩な料理だし、日本人の私には新鮮ですからね。それでいて欧米なのにイカもタコもエスカルゴも食べるし、味がしつこくないから、ですかね。高橋さんは?」
「私は洋食でも肉料理が好きなので、アメリカのどーんとした大きなステーキなんかが好きなんです」
「へぇ、そんな細い身体で大きなステーキなんか食べられるんだ。それは大したものだ。ステーキの種類とかに好みはありますか?脂ののった和牛とかですか?」
「いえ、和牛はすき焼きとかには良いですけど、ステーキには・・・。たくさん食べられないですから」
「それはそうだ。それじゃ、アメリカンステーキって感じですかね?」
「はい、たぶん。でもあんまりよく知らないんです」

美咲はわざと隙を作って宏一の反応を探った。

「そうですか。確かに、アメリカンレストランて意外と少ないですからね。洋食屋さんのステーキって言うのも良いですけどね」
宏一は美咲の作った隙には反応せず、軽く躱した感じだ。
「そうなんです。だからステーキは洋食の店で食べることが多いですけど、それだと大きな肉ってわけにはいきませんから・・・・・」
「そうですね。もし良かったらアメリカンなステーキの店をお教えしますよ」
「はい、ありがとうございます。それじゃ、次の機会にでも」

美咲はそう言ったが、次の機会など無いし、宏一が情報提供だけで誘って来ないのでちょっとがっかりしていた。ただ、本気で宏一に誘って欲しかったというわけでもない。ちょっとしたスリルを楽しみたかったという感じだ。宏一がダボハゼのように餌に食いついて誘ってきたらスルッと躱してクスッと笑うつもりだったのだ。

「そうですか。以前に行ったアメリカのお店の東京支店が結構良かったので、気になったらいつでも言って下さいね」

そこで美咲は考えた。店の情報を受け取るということは、宏一にSNSなど何かの連絡先を交換することを意味する。先程の会話では宏一の食いつきが悪かったので、このまま放っておくと宏一との関係そのものが消えてなくなりそうだ。また餌に食いついてこないくせに、こういう所だけはしっかりしている。美咲はちょっと考えたが、この提案には乗ってみることにした。それくらいのスリルを味わっても良いだろうと思ったのだ。

「それじゃ、そのお店の情報、今、ラインでいただけますか?」
「え?いいんですか?」
「はい、三谷さんが褒めるお店って言うのに興味を持ったんです」
「それじゃ、今そのお店の情報を出しますね。ちょっと待ってください」

そう言うと宏一は情報を探し始めた。もちろん直ぐに見つかったので美咲とラインの交換をしてから送る。

「さっきから話を聞いてたらアメリカンなステーキに興味があるって事なので、このお店なら絶対ですよ。ドカンときますから」
「お肉の味はどうなんですか?」
「高橋さん、国産牛とオーストラリア以外の肉は・・・・」
「三谷さん、美咲でいいですよ」
「あ、はい、ありがとうございます。それでは美咲さん、アメリカンビーフの味は、どう思います?」


つづく

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