メルマガ:少女の性シリーズ
タイトル:少女の性 685  2025/09/06


少女の性 第六百八十五部

「まさか・・・・」
「まさかって何?」
「さとみさん、まだ好きだって気が付いた、とか」
「ちょっとちがう」
「とっても優しかった?」
「・・・・・・・・・・」
「聞かせて」
「・・・・・・・・・・・」

さとみは黙り込んだ。宏一はしばらく待ったが、なかなか話そうとしない。

「言いたくない?」
「・・・・・・違う。何て言おうかと思って」
「いろいろな想いが錯綜してるって事か」
「上手いこと言うのね」
「さとみさんより長く生きてるからね」
「・・・・・・・そうね」
「それで?」
「・・・・・・・明日のことだけど・・・・キャンセルできる?」
「うん、いつでもできるよ。キャンセルする?」
「その方が良いかも・・・・・・」
「それならそうするけど、その前に聞かせて。気持ちが揺れてるの?」
「・・・・・・答は決まってる。でも・・・・」
「気持ちが揺れた自分が嫌なの?」

さとみはコクッと頷いた。そして、下を向いたまま言った。

「宏一さん、私、どうすれば良いと思う?」
「さとみさんの心をどうこうはできないけど、結論から言うと、俺は歯を食いしばるべきだと思う」
「結論の前を聞かせて」
「戻ってもさとみさんが幸せになれるとは思えないから」
「・・・・・・・私と同じね」
「答が決まってても吹っ切れない?」
「そう。どうしようもない女よね。戻ればどうなるか分かってるのに。ほんとうに救いようがないわ。バカな女よ」
「でも、言い方は悪いけど、よくある話だね」
「そう・・・・・・・・」
「そう。だって、ついこの前まで好きだったんだから。それでずっと暮らしてたんだから。安心して、寄りかかって、暮らしてきたんだから。その好きな気持ちは今もあって当然だよ。嫌いになる理由ができたから部屋を出たのであって、好きな気持ちが無くなったわけじゃないんだから」
「もっと聞かせて」

「俺の知る限り、王道としては、もう一度戻って、同じ事を繰り返して、結局また出てくる、だね」
「やっぱりね・・・・・・・」
「うん」
「そうなるわよね・・・・・・たぶん」
「うん、たぶんじゃなくて、悪いけどほぼ確実にね。でも、ここで一度戻るのも選択肢の一つではあるよ。気持ちがはっきりするからね」
「・・・・・・・嫌・・・・あんなのはもういや・・・・・・宏一さん、助けて」

さとみの表情は能面のように無表情だった。まるで感情が抜けてしまったみたいだ。

「そう、さとみさんの話はだいたいわかった」
「宏一さん、お願い、さとみさんの気持ち次第とか言わないで」
「さとみさんの気持ちはもう分かってるから、そんなことは言わないよ」
「それじゃ、何て言ってくれるの?」
「明日、金沢に行こう」
「・・・・・・・・・わかった」
「そして、金沢に行って、ぜんぜん違う環境の中で気持ちの整理をするんだよ」
「できるかしら」
「するの。何が何でも。整理した後に東京に戻ってきて、戻るか離れるか決めるんだよ」
「決められるの?金沢に行ったくらいで」
「たぶん、決められると思う。さとみさんが俺を信じてくれれば」
「そんなずるい言い方、止めて」
「それじゃ、今のさとみさんの気持ちがどれだけ強いのか、金沢に行けば分かると思う、って言えばどう?俺が確認させてあげる」
「私の今の気持ちなんか知らないくせに」
「そうだけど、でも、どんな気持ちでも、いつもと違う場所に行けばはっきりしてくると思うんだ。元カレと一緒に来れば良かったって思うかもしれないし、元カレに言いたい言葉が見つかるかもしれない。そうで無ければ、一人になりたいって思うかもしれない。いつも同じ場所にいると、日常生活に流されて自分の気持ちが見えないってことはあるからね」

「最初の選択肢は無いと思う」
「そうなんだ」
「あのね、だって一緒に旅行に行った事って、ほとんど無いもの」
「それなら、却っていいんじゃないの?旅行に行くなんて彼から離れるからできることだって事だよね。さとみさん自身は旅行が好きなんだから」
「そうね」
「旅行が良いのか、彼との日常が良いのか、両方手にして決めれば良いさ」
「上手いこと言うのね。分かったわ、行く。信じてみる」

そう言うさとみの表情は、何かにすがるような表情だった。

「ねぇ、ところで、どうして金沢なの?」
「歩くから。いっぱい歩く時間があるから。次々に名所を見るんじゃなくて、一つずつ自分で移動する時間があるからだよ」
「自分で考える時間があるって事か・・・・」
「そう、京都もそうだけど、でも京都は最近混みすぎだからね」
「わかったわ。そうする」
「それで、どうする?一泊だけにして土曜日に帰ってくる?それとも、せっかくだから土曜日も泊まって日曜日に少し早めに帰ってくる?」
「そうね、せっかくだから土曜日も泊まろっか?」
「うん、分かった。手配しておくよ」

「ねぇ、どんなところに泊まるの?教えて?」
「明日の夜は着く時間も遅いからビジネスホテルだね。それで、土曜日も泊まれるなら、どこか温泉旅館に一泊しようか?」
「うわぁ、良いの?金沢の近くの温泉て、かなり高いのよね?」
「お、乗ってきたね。まぁ、それはどれくらいのレベルにするか次第だけどね。でもだいじょうぶ。知り合いに個人で旅行手配をしてる友達が居るから、情報は十分入ってくるよ。心配しなくていいから。きっと、かなり楽しくなると思う」
「そういう自信満々なところ、素敵だなって思う。ありがと」
「うん、いろいろ移動するから歩きやすい格好で来てね」
「分かった。明日会社を出たら着替える」
「うん」

「宏一さんは、その格好で行くの?」
「男はあんまり変わらないからね」
「いや、ちゃんと着替えて。シューズも」
「おれも?」
「そう、スーツの男の人と金沢の街を歩くなんて絶対いや、不倫みたいだもの。それも低レベルの」
「おやおや、はいはい、分かりました」
「それじゃ、東京駅で待ち合わせ?」
「そうだね。新幹線改札の前で待ち合わせようか。南口側の北陸新幹線改札の前で6時十分でどう?内緒だけど、さとみさんだけ午後は3時頃から外回りで直帰にしておくから」
「分かった。なんとか間に合わせる」
「それだと9時前に金沢に着くから、ちょっと遅い夕食になるね」
「着いてからのことは全部宏一さんに任せる」
「ありがと。がんばるよ」
「なんか、少し楽しみになってきた。金沢かぁ。学生の時以来かも」
「その時は、どこに行ったか覚えてる?」
「えっと、兼六園と金沢城と、茶屋街と・・・・・美術館だったかな?」
「美術館て、21世紀美術館?」
「よくわかんない」
「まぁいいや、それは明日のお楽しみだね。金沢まで行く間だって、楽しくできると思うんだ。だから、東京駅から楽しくしようね」

「・・・・・金沢までの間、少し寝ても良い?いきなり楽しくできる自信、無いの」
「うん、疲れが溜まってるはずだから、少しだけど寝てちょうだい」
「優しいんだから。そう言うところ、私がメロメロになる最大の理由よ」
「おやおや、褒めてくれたのかな?」
「うん、上手でしょ」
「そうだね。さとみさんらしいや」
「ねぇ、金沢に着いたら、回るところは私が考えても良い?」
「へぇ、凄いね。俺は付いていくだけでいいの?」
「そう言うわけには・・・・移動については全然分からないから経験者でないと」
「行きたいところだけ教えてくれれば、移動は俺が調整するよ」

「すごいわね、今日は気が重くて落ち込んだまま明日になるのが嫌で宏一さんに声を掛けたのに、いつの間にか宏一さんのペースに乗せられてる」
「前を向かないと。後ろ向きはだめだよ」
「本当にそうよね。後ろを向いた方が楽だけど、それじゃ先が見えないもの」
「うん、過去にとらわれてたら時間の無駄だよ」
「全くだわ。ねぇ、今日は泊まってってくれるの?」
「ううん、明日に取っとくよ。明日のさとみさんの状況次第でどうなるか、それは明日の楽しみにしておくから」
「私は焦らされる訳ね。ほんとうに、こんな風にされたら離れられなくなっちゃうじゃないの」
「よく言うよ。散々冷たくしてたくせに」
「会社は会社」
「だって・・・・」
「はいはい、そうでした。確かにわざと距離を置いてました」
「うん、また距離を詰めてくれて嬉しいよ」
「そうね。明日はもっと距離を詰められるのかな?」
「どこまで詰められるか、楽しみだね」
「ゼロまで持って行かないとね。ねぇ、明日、遅くなるけど一緒に夕食を食べに出ましょうよ。金沢ならあるでしょう?」
「そうだね。それじゃ、新幹線の中はちょっとだけ我慢して、金沢の伝統文化を楽しみますか」

さとみはすっかり気が軽くなった気がしたが、これでまた一人になれば同じ悩みが湧き上がってくるだろうと思った。しかし、それでも良いと思った。とにかく、明日を楽しみに準備をすれば良いのだ。さとみは帰りにドラッグストアで旅行の準備品を買い出しすることにした。
宏一はその晩、いつも旅行手配を頼む知り合いに電話した。

「いやぁ、珍しいこともあるもんだね。三谷さん、元気にしてた?」
「うん、いつも突然でごめん」
「そう言うってことは、急ぎの手配って事かな?」
「ご明察。明日と明後日、金沢に行きたいんだ」
「何か時間とか希望とかあれば教えて」
「人数は二人。明日は東京を6時過ぎに出て金沢に行って一泊。それから土曜日はどこか加賀温泉の良いところに泊まりたいんだ」
「レンタカー、使う?」
「そうだね。土曜日はレンタカーかな」
「帰りも新幹線?」
「特に決めてないよ。少し早めに、お昼過ぎに出て帰ろうと思うんだ」
「分かった。ちょっと待ってて」
「いつもいつも悪いね。感謝してるよ」
「商売ですから。それじゃ、もう一人の名前を教えて。もし新幹線がいっぱいで帰りに飛行機を使うなら必要だから。全部決まったら折り返すよ」
「ありがと。待ってる」

そして宏一はさとみの名前をSNSで送って部屋でビールを飲んで待っていると、程なく連絡が来た。

「三谷さん、決まったよ。詳細はメールで送ったから」
「どこか問題とか、あったの?」
「いいや、でもね。ラッキーなことに土曜日は豪華な食事付きで良いところが安く取れたんだ。たぶん、急なキャンセルか何かでディスカウントになってたんだと思う。普通は絶対無い値段だったからね。もし、変更があれば直ぐに教えて。まぁ、三谷さんはそんなに細かいこと言わないと思うけど」
「はいはい、楽しみにしてますよ。もちろん不都合があれば連絡するけど、たぶんだいじょうぶなんじゃない?ありがと」
「まいどあり」

通話を切ってからメールを確認すると、詳細な手配が書かれたメールが来ていた。どうやら、行きは新幹線で金沢に行き、帰りは小松から飛行機になるようだ。土曜日の宿は安いと言っていた割にはそれなりの値段だったので、きっと元の値段はもっとずっと高いのだろう。そう思うとどんな宿か楽しみだ。

宏一は翌日、旅行を楽しみにして出社したが、さとみの表情は普通のポーカーフェイスと言うよりは、明らかに暗く、宏一への対応も素っ気なかった。さらに、昼になってメールでキャンセルできないかと言ってきたのだ。やはりさとみが心配したとおり、一人になった途端に自己嫌悪に陥って旅行どころでは無くなったのだった。

宏一は慌てることなく、さとみの味方になるので食事だけでもどうかと返事を返したところ、3時過ぎになって、やっぱり旅行に行くと連絡が来た。但し、一度部屋に戻るので出発は8時近くになるがそれでもいいかと言う。もちろんOKと返事をした。そして約束通り、さとみに部品問屋を回って直帰するように伝えた。


つづく

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