メルマガ:少女の性シリーズ
タイトル:少女の性 673  2025/06/15


少女の性 第六百七十三回

「ううん、全然。大人だって、特定の人に甘えたいと思ったりするよ。人が結婚するのって、究極的には甘えられる人を見つけるって意味もあると思うよ」
「そうなんだ。知らなかった・・・・・・」

葵は宏一の答に納得すると同時に、『結婚』という言葉に反応した。そして、『三谷さんとか・・・・・』と思って耳が赤くなった。

「だから、葵ちゃんも早くそう言う人を見つけないとね」
「そうね」

葵はブスッと答えて『鈍感!』と思ったが、その時、自分が宏一に完全に心を開いていることに気が付いて少し驚いた。『私、三谷さんに特別な感情を持ってる?』しかし、葵自身にはそんな気持ちを持っているという自覚がない。『どう言うこと?』葵は不思議に感じた。何となくモヤモヤするのが自分でも不思議なのだ。

「ねぇ、葵ちゃん、焼きカレー、一口食べてみない?」
「いらない」

今までとは違って葵の口数が一気に減った。宏一は葵が黙り込んでしまったので、なんと言って良いのか分からなかったが、葵は黙々とホットケーキを食べている。そして宏一の方も黙々と食べたので窯焼きカレーをさっさと食べ終わってしまった。

「フレンチトーストはどう?一口食べてみる?」

宏一は恐る恐るそう言ったが、葵は今度はコクンと頷くと、フレンチトーストにフォークを伸ばした。

「アールグレイもせっかくだから一口どうぞ」

そう言ってカップを差し出すと、葵は何も言わずに一口飲んだ。

「そんなに気を遣わなくたって良いのに」

ぼそっと葵が言った。

「え?」
「私が不機嫌なのは三谷さんのせいじゃない。だから気を遣う必要なんて無いのに」
「でも・・・・何か俺・・・」
「何もしてない。だから気を遣わなくていい」

葵の言い方がぶっきらぼうなので気になったが、これ以上何か言うと地雷が爆発しそうだ。宏一は覚悟を決めると、フレンチトーストを平らげてアールグレイを勝手に飲んでしまった。

ただ、フレンチトーストを半分近く食べた葵の不機嫌はだいぶ治ったようだ。明らかに表情が再び明るくなってくる。宏一はひとまず安心すると、葵が食べ終わるのを待ちながら話しかけるタイミングを図った。

「葵ちゃん、どうだった?」
「美味しかった。ありがとう。フレンチトースト、食べて良かった」
「そうか、良かった。美味しかったんだね」
「三谷さんも食べて。半分近く食べちゃったけど」
「全部食べたって良いのに」
「ううん、もうお腹いっぱい」

そう言うと葵はフォークを置いた。宏一は、嫌味にならないようにさりげなくフレンチトーストを引き寄せてさっさと食べていく。

「食べ終わったら出なきゃ、だね」
「そう、もうだいぶ並んでるから」

葵は周りを見渡しながら言った。確かに、入り口には待っている人が見えた。

「うん、何となく無言の圧力を感じるよ」
「私も。ゆっくり話すなんて無理っぽい」
「そうだよね。それじゃ、出ようか?」

食べ終わった宏一は葵を促して会計を済ませて外に出た。

「うわ、こんなに並んでるなんて」

外に出た宏一が行列の長さに驚いて声を上げると、葵は涼しい顔で宏一の隣に並んで何となく歩き始めた。

「やっぱりね・・・・」
「やっぱりって?」
「ううん、日曜日の午後だから、これくらいは並んでて当然、て思ったの」
「凄いなぁ、百人くらい居るんじゃ無い?」
「たぶん、もっと」
「そうだね。もっとだね。葵ちゃんが1時間半も掛けて並んだ理由が分かったよ」
「私だって詳しくは無いけど、ただ、何となく日曜の朝なら並んだ方が良いかなって思っただけ」
「このお店はもともと知ってたの?」
「知ってたっていうか・・・・・ネットで見たことがあるって程度。後、友達で行ったことのある子が居る」
「そうなんだ」
「昼間は凄い行列になるって書いてあって、それなら並ぶなら朝だなって思ってたの。ふつう、朝にこの辺りにいることなんて無いから」
「そりゃそうだよね」

「だから、近くを探したときにこのお店を見つけて、直ぐに決めたの」
「それじゃ、インスタに上げてみんなに紹介するの?」
「紹介っていうか、報告っていうか・・・・・・でも、もう上げた」
「え?いつの間に?」
「直ぐだもの、写真なんて」
「そうなんだ。俺、知らなくて・・・・・ごめん」
「男の人はそうよね。クラスの男子でも少ないもの」
「葵ちゃん、男子でインスタやってる男の子、知ってるんだ」
「クラス委員だから、一応知っておかないと。何かと役に立つから」
「そうなんだ」
「顔が写って無くても、何となく誰と誰が一緒に動いてるかは分かるようになるから、クラスで問題が起きたときに役に立つの」
「凄いね。そのためにいろいろ見てるんだあ」
「そのためって言うわけじゃ無いけど・・・・・・でも、そうかも」
「クラス委員て、本当に大変なんだね」
「そう。やになっちゃう」
「クラスの出来事、毎日チェックしてるんだ。たいへんだね」
「まぁ、ね・・・・」

葵はだんだん口数が少なくなってきた。クラスの話題を聞かれるのが嫌なのだ。二人はいつの間にか御茶ノ水の駅の近くまで来た。

「葵ちゃんはこのまま帰るの?」
「そう・・・・・・って言うか、三谷さんは?」
「俺はちょっと行きたいところがあるから、そっちに寄って帰るよ」
「そうなんだ・・・・・」

葵は残念そうに言った。

「え?どうしたの?」
「ううん、なんでもない」
「行きたいところがあるの?」
「ちがう、いいの、もう」
なんか歯切れの悪い受け答えに宏一は戸惑ったが、それでも取り敢えず目的地に向かうことにする。
「それじゃ、葵ちゃん、明日、またね」
「はい」

葵は少しブスッとして返事をすると、改札へと入って行った。宏一は、たいした用事ではなかったが、昨日見た本を買っておこうと本屋街に戻って本を買い、それから浜離宮に行ってベンチでしばらく本を読んでから帰るつもりで山手線に乗った。
すると、結衣から連絡が来ていた。明日、来れないかという。

『ごめん、明日はだめなんだ』
『別の子の家庭教師を始めたって聞いたけど、その子?』
『そう』

結衣が知っているということは、洋恵の紹介ということもセットで知っているはずだ。

『いつ来て貰える?』
『水曜日ならだいじょうぶ』
少し間が開いて返事が来た。
『分かった。水曜日に来て』
『分かったよ』
『待ってる』

宏一は、久しぶりに結衣を抱けると思うと一気に嬉しくなった。それに、奈緒子の妖艶な身体も抱けるかもしれないのだ。しかし、結衣がなぜ再び声を掛けてきたのかが少し気になった。

結衣は宏一から離れて自分の彼に行ったはずだったからだ。しかし、結衣が部屋に呼んだと言うことは、抱いて欲しいまたは抱かれても良いということなのだろう。宏一はそれ以上考えても仕方の無いことなので、取り敢えずそれ以上は考えないことにした。

一方、宏一と別れた葵は一人寂しく家路に就いていた。すると、隣のクラスの子からラインが入っていた。『えっ』葵は驚いた。宏一と葵の二人が仲よさそうに歩いている写真が送られてきたのだ。付いていたコメントは『朝からデート?』。

葵は慌てて写真をよく見てみた。どうやら、パンケーキの店に行くまでの道中のワンシーンのようだ。写真をよく見ると、結構粒子が粗いので写真の一部を切り抜いて拡大したもののようだ。

葵はなんと返そうかしばらく考えたが、変に隠そうとすると余計面倒なことになると思って『見ちゃったんだね』と返した。すると、直ぐにまた返事が来た。それはそうだろう。今まで葵は男性と並んで歩くことなどほとんど無かったからだ。おしゃべりすずめには格好の餌というわけだ。

『正直に、誰?』
『家庭教師の先生』
『家庭教師となぜに朝から?』
『神保町のパンケーキの店に行ってきた。早くに並んだから』
『二人で?』
『そう、先生が行きたいって言うから、奢ってもらってきた』
『なんだ』
『そう、期待してたらごめん』
『彼じゃないの?』
『知ってるでしょ?』
『分かった』

そこでラインは途切れた。葵はどうやらやり過ごせたのでは無いかと思った。もしかしたら他の子に回すかもしれないが、これならそれほどの騒ぎになることはなさそうだ。葵は念のために確認して置いた。

『そっちはどうしてお茶の水?』

すると、少しして返事が来た。

『英会話スクールだよ』
『あんなとこまで行ってるんだ』
『英会話専門だから。葵は今、どこ?』
『帰るとこ。もうすぐ渋谷』
『なんだ』

葵は少し危ないかもとは思ったが、誘ってみた。

『英会話は終わったんでしょ?今、どこ?』
『塾に向かってる。1時から』
『そうか、残念、分かったわ』
『またね』

これで取り敢えずは安心だ。葵は昼を回ってしまったが、友達の家に行くと一緒に自宅に行った。

その日の夜、送られてきた写真を再度よく見てみた。確かに宏一の横を歩いている自分が良い雰囲気を出している。葵自身も笑顔のようだ。これなら恋人同士に見られても仕方ないと思った。それほど自分が宏一の近くを歩いて楽しそうに笑っている。葵は改めて自分の気持ちが宏一に近づいていることを知った。

ただ、葵としては宏一のことを『仲良しの親戚のお兄さん』のようにに思っていて、恋人とは思っていなかった。『好き』という感情はないからだ。ただ、心を許せる、安心できる相手だと思っていた。ベッドで何もせずにそっと抱いていてくれた気持ちが今でも本当に嬉しい。それを思い返すと心が温かくなる。夜のラインの間も友達に『今日は特別に上機嫌だね』と言われて思わず笑顔になっていたことに驚いた。葵は二人が写っている写真を拡大して切り出し、スマホの写真フォルダーに保管した。

その日宏一は、もしかしたら洋恵が来るかも知れないと思ってケーキを買って帰ったが、結局洋恵からは何も連絡が無かった。宏一はがっかりした。木曜日に由美に出してからたっぷり溜まっていて、正直気持ち悪い。おまけに明日は葵だ。宏一は久しぶりに一人上手で出しておくことにした。その日の夜、宏一に由美から連絡が来て、火曜日は会えないと言ってきた。宏一は心の中でため息をつくと、もう一回出しておくことにした。
月曜日、宏一が会社に着くと、さとみは既に席について仕事を始めていた。

「おはよう・・・」

その途端、さとみがギッと睨んだ。

「ございます」

宏一が慌てて付け足すと、さとみがにこやかに返事をした。

「おはようございます」
「今日は早い・・んですね」
「はい、少し先にやっておいたほうが良いと思う伝票整理があったもので」
「そう言えば、倉庫のほうもそろそろやっておいたほうが良いですよね?」
「はい、もう帳簿はだいたいできているんですけど、行くとなると時間が掛かるので、どうしようか考えています」
「月例とは言え、一日仕事ですからね」
「はい」
「なるべく早く言って欲しいと思っているので、日程は改めて相談しましょう」
「今週ですか?」
「そうだなぁ、やっぱり今週のほうが良いだろうなぁ」
「分かりました。準備します」
「もうすぐ、向こうでの工事も始まるので、その前に一度、と思って」
「そうですね。そのほうが良いと思います」

宏一は、さとみがよそよそしいとは思ったが、会社なのでそういうものだと思うことにした。さとみに棚卸しを任せられるのなら、宏一にとってこんな楽なことはない。宏一が始業の準備をしていると、工事業者が顔を出した。


つづく

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